ベイエリア通信#13  2000年8月29日

(この文章は2000年にアメリカで書いて友人に送っていた通信です)
ハズレサンフランシスコday
○今日のオークランドの天気 曇り、ときどきなんと雨。とっても寒い。セーター着用者多し。
 先週の土曜日にサンフランシスコのエクスプラトリアム(展示品に触れて学ぶ科学博物館みたいなところ)で開催している企画展示を見に行こうと、サンフランシスコへまた行った。その前に1週間も通ったものだから、気分的にずいぶんサンフランシスコを近くに感じるようになった。
 ところが、バートの駅から地上へ出て、目的のMUNI(サンフランシスコのバス)の番号を探したところ見当たらない。地図を見て、「この辺なんだよなあ。。。」とあっちに行ったり、こっちに行ったり、気がつけばもうユニオンスクエア(サンフランシスコで有名なショッピングエリア)ではないの。やっと、目的の番号をバスストップで見つけたが、そこは一方通行で反対方向へ行く路線だった。
 そんなして疲れてきたところで、ビルケンシュトックというドイツのシューズメーカーショップのウインドウの「sale」文字が目に入り、ついふらふらと中に入り、セール品に手を出してしまった。このメーカーのサンダルは去年の新潟では石井スポーツでしか買えず、それも2種類しか種類がなく、色も選べる状態ではなかった。ここは直営店なので、いろいろ種類が豊富である。買った後、「こんな買い物をするハズではなかったのに。」と、買い物袋を見てため息をついたりもしてしまった。なら、買うなって、ね。購入物は来年の夏用サンダルになる予定。
 その日はエクスプラトリアムをあきらめ、マンガを買おうとジャパンタウンにある紀伊国屋書店に行き先を変更した。数週間前にサンホゼの紀伊国屋で買おうかどうしようか迷って買わなかった「研修医なな子」の最新刊である最終巻を、「やっぱり買おう。たまには(?)頭を空にして、ぼーっとマンガを読むことも必要だあ!」と、毎週末に1,2時間もボーっと日本のテレビ番組を見ているにもかかわらず、安いレストランだったら2食の値段に相当、読めば約30分で終ってしまう「研修医なな子」を買おうと決心して、行った。こちらで買ったマンガは「陰陽師」9巻だけ。私としては、かなりがんばって我慢している方だ。
 だがしかし、コミック売り場が近づくに連れ、いやな予感が、、、予感は的中した。なかった。1巻と4巻しかなかった。「そんなばかな。」サンホゼにはあったのにー。落胆しつつ、先日、同様に買おうか迷っていた立花隆の東大での講義をまとめた本を見たが、またなかった。使えないサンフランシスコ紀伊国屋書店であった。サンホゼよりもずいぶん大きいのに、おいおいしっかりしてくれよ紀伊国屋気分。
 その後、他の立花隆の本を少し立ち読みし、ある新書を1冊買い、全てが思い通りに行かない反動で日本食料品店でインスタントラーメンなどをしこたま買いこみ、バスに乗ってユニオンスクエアへ戻った。インスタントラーメンは中華三昧とかサッポロ一番、出前一丁、うまかっちゃんなどいろいろ売っているが、私が一番好きな昔ながらの素朴な「マルちゃんの塩ラーメン」は見たことがない。インスタントラーメンはジャンクフードと知りつつ、日本の味が懐かしい非常食なのである。
 ユニオンスクエアにはメーシーズ(Macy’s)という、日本で言えば伊勢丹とか三越みたいな有名なデパートがある。通りを歩けば、メーシーズの紙袋を持っている人にあたる。新聞には毎日メーシーズの広告が数面も載っている。儲かっているのね。私はめったに行かないけれど、朝からのハズレショックでボーっとしていたので、セール中のメーシーズにもフラフラ入ってしまった。
 けれども、基本的にデパートでのお買い物は疲れるのでそれほど好きでもなく、とりあえず興味のあるところで地下のキッチン用品売り場へ向かった。いやあ~、やはり日本と違いますなあ、と思うのは皿とかナイフやフォークや包丁などの売られ方である。
 基本は「セット」なのだ。「ドーンと買ってけぇー」とでも言っているように、セット用の箱に入って売られている。日本も皿の5枚セットとかよくあるけど、数種類の大きさが揃っている同じ柄の皿のセットがドーンと箱に入って売られているのはあまり見ない、ですよね?日本人は結構少しずつ好きな食器を揃えていくように思う。もちろん、ここでもそれぞれバラで買えるけれど、メーシーズの売り場の基本は同じ柄のいろいろな大きさの皿が10枚くらいずつ入っているセットである。
 その理由の一つは食器洗浄機の普及だろう。一般家庭の掃除をしてわかったことだけど、こちらの中流以上の家庭では食器洗浄機を備えているキッチンが多い。それを使う場合は、中身がいっぱいにならないうちは洗わない。ちなみに機械は日本の洗浄機よりもずいぶん大きい。キッチンにオーブンと並び、備え付けである。だから、食器がたくさん要るのだ。そうでないと、食器がなくなるからね。
 きっとシングルや若いカップルなどは洗浄機がない所に住んでいる人が多いとは思うし、あっても夫婦2人とか小人数だとめったに使わない人もいるけれど、子どもがいる中流以上のファミリーで、一軒家に住んでいて忙しくしている人達は、こんな状況のはずだ。
 別の理由として、器に対する感覚の違いがある。日本のように食器を楽しむ感覚は、無いわけではないけれど、平均すると日本人ほどではない気がする。いろいろな器を持っているよりも、同じ種類の皿がどーんとあることの方が便利なのだ。またこちらでは使う皿の種類も少ない。大体「小皿」がない。ケーキ皿はあるけれど。こちらの食事方法は1プレートにいろいろとって食べるか、既に盛り付けてある形式で、日本のように小皿で呈するなんてことはない。よく言えば合理的、便利、洗い物が少なくてラク、悪く言えば大雑把。私は大家さんの食器を使っているので、今はすっかりアメリカ風1プレート食事である。
 包丁もセットで売られている。いろいろな包丁が包丁刺しとともに、セットになっている。そんなに使うのか、かなり疑問。ちなみに私の住んでいる家とある友人宅のキッチンの包丁は、強力マグネットで壁にくっついている。これを初めて見たときは、「すごい」と思った。包丁がむきだしじゃあ~。でも、マグネットが本当に強力なので、落ちません。まあ落ちたら商品にはならないか。
 こちらで日本に帰る前に買いたいなあと思うキッチン関係商品は、鍋関係と、キッチン電気グッズ。アメリカ人はあらゆることに関して、いかに楽にできるかを追求しているので、そういう手間が少なくなる製品の開発が多い。
 例えば掃除用のモップなども、日本人が考えないようなものが多い。モップの先についているスポンジを絞れる工夫がされているのだが、しっかり絞れないので、最初は床がビショビショになる。「こんなんで拭いていいの?」という状態が絞れる最終状態だ。それ以上はいくらがんばっても絞れない。雑巾をきちんと手で絞って床を拭く日本人としては、このようなお掃除グッズはとっても「こんなんで…」と感じるのである。私は密かに、アメリカ人は雑巾が絞れない人が多いのではないだろかと想像している。生活の中に、雑巾を絞る機会がないのだ。台所の上とかはスポンジで拭くし。。。でも、これは未確認情報である。
 キッチン関係に戻ると電気製品のブレンダーやフードプロセッサーなどは強力で、結構いいのがある気がする。電動コーヒーミルも安い。ただし電気炊飯器に関しては、日本で売られている製品のこだわりがすごい。実際、こちらでアメリカ人用に売られている電気炊飯器も日本製のものが多いが、炊飯と保温のスイッチしかなく、お釜も軽いアルミ製が主流。日本で言えば10年くらい前の製品のイメージである。日本人がいかにご飯の炊き方にこだわっているか、アメリカ人がこだわっていないかがわかる。私のアメリカ人友人は、米をといで炊く前に最低30分は置いておく、なんてことはしない。短粒種でも洗ってすぐ炊く。
 アメリカと日本の電化製品を較べると、アメリカ製品は細かな工夫がなく単純でかなり強力、日本のはここまでしなくともと思ってしまうようなデリケートさが特徴で、痒いところにいかにして手を届かせるかにメーカーの競争がかかっている。ついでにアメリカで洗濯していると、服がすぐボロくなる。乾燥機のせいか洗濯機のせいか洗剤のせいか不明だが、きっと相乗効果なのだろう。
 結局その日はちょっと気に入ったセールのイタリア製マグカップを1つ買ってしまった。今月は脳のお金回路がショートしている。もともと数回のヨガワークショップの参加費が結構かかったのが原因であるが、いままで節約、節約でやってきたのが、ちょっとこわれてしまった。来月からはまた軌道修正が必要だあ。
 エクスプラトリアムの見たい展示は今週末まで。行けるかしら?
 とこれを書いた後で、白洲正子と志村ふくみの本をつらつら読み、自分の書くものとの違いをあらためて感じ、かなり恥じ入ってしまった。これらの方々と較べるという前提が間違っているものの、どんな文章でも、その書いている人を表現していることに変わりはない。白洲正子さんの切れ味が鋭く、さっぱりしてあとくされのないここちよい日本語、志村ふくみさんの凛としたきびしさを内包しつつ匂いたつようなふくよかな日本語。言葉では語れないことも多いとは言え、文章も行間から否応無しにその人を語ってしまう。私のは、、、、まあ、いっか!?とりあえず私の眼に映るアメリカってこんなだよー報告ですね。行間にはちょっと日本恋しい私が見えるようだ。トホホ。ともあれ、質の高い文章を読む時間は、うれしい時間です。日本語はきれいな言葉だというのを、再認識させられますね。

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