(この内容は2000年、アメリカ滞在時に書き、友人に送っていたものを転載したものです)
沈黙の週末
今回は1ヶ月ぶりです。一時帰国前にもう1回発行できるかな?A子は18日夕方に成田に到着し、長岡の実家に帰ります。あと、3週間じゃないですか!温泉、お鮨、おいしい魚、お風呂、ああ~。
今日の天気は朝は雨模様、昼頃から晴れ。昼間はTシャツでも涼しいけどOKだけど、やはり外では長袖でしょう。朝夕は暖かい服装が必需。
11月23日は感謝祭(サンクスギビング)だった。この祝日は宗教には関係無く、誰でもが楽しめるアメリカの祭日である。家庭ではターキーを食べたりする。この日はみんな食べ過ぎるらしい。
私は何をしていたかというと、[ヨガ&禅のリトリート]に参加していて、ベジタリアンのおいしい食事をいただいていた。ベジなのでターキーは無かったけど、ご馳走だった。
-生野菜(マッシュルームとかも生-こちらではブロッコリーやカリフラワーなども生で食べてしまう)とディップ(3種類のディップがあった)。
-豆腐のスライス(ドレッシングがかかっている、こちらの豆腐は日本の豆腐より固いものがあるので、スライスできちゃうのだ)。
-ナッツローフ、マッシュポテト、グレイビーソース(中身はよくわからなかった)、クランベリーソース、ビーツ(日本にはない根菜)のサラダ、グリーンサラダ、グリーンライス(ライスに何かのハーブを混ぜてある)。
-そして極めつけは6,7種類ものパイ(3種類のアップルパイ、レモンクリームパイ、パンプキンパイ、チョコレートパイ、ピーカンパイ)などなど。
私の人生の中で、こんなに多種類のパイを一度に味わったのは初めてである。一般にアメリカのデザートは甘すぎて、閉口することも多いのだけれど、このリトリートの食事は料理人がTASSAJARAという食事がおいしいという評判の禅関係のリトリートセンターから来ていたので、どちらかといえば料理は薄味で、デザートも含めみんな本当においしかった。
このリトリートは、私が参加しているヨガのプログラムの先生と、禅(多分曹洞宗系)のお坊さんであり、サンフランシスコにある有名な「GREENS」というベジタリアンレストラン(私はまだ行ったことがない)の関係者であり、料理本を数冊出している、そのダンナの主催だった。水曜日の夜から日曜日の昼まで、座ったり、ヨガをしたり、食べたり、お話を聞いたり(日本で言う講話?)、労働したり、散歩したり、ボーっとしたりしていた。
実は最近どうやらこの10ヶ月の疲れが出てきたらしく、どうもあちこちあまり調子がよくなくなっていた。人からはTake it easyと言われ、これはちょっと本当にそうしないとだなあと思い、ちょうどよいタイミングだったので参加することにした。
実際、本当にゆっくりできた。というのはこのリトリートはSilenceが一つの目的であり、公共のスペースとか食事中でも話をしないのだ。もちろん必要事項は話すけれど、話す時も小さい声で話し、静寂を守る。これが私にはありがたかった。
普段は食事中に同じテーブルの人が何を話しているのか、終始耳を澄ませて聞き、会話に加われないことにストレスを感じてしまう。最近ほとほと感じるのは、聞くコンディションが整っていないと、聞き取るのがとても大変だということだ。レストランの中(とにかくみんな話すので騒がしい)、街の騒音の中、車の中-例えばバックシートに乗っていると、フロントシートで話している人の声がとても聞きづらい、などなど。日本語でも同じコトだけれど、英語だとそのハンデが倍増してしまう。だから、4,5人くらいで一緒にいる時は、何となく彼らとの距離を感じてしまい、寂しさを感じてしまうことが多々ある。
今回はこの状態があまり発生しなかったため、本当にホッとしてくつろぐことができたのだ。ただそこにいることを楽しめた。アメリカ人にとっても、話さないで許される時間というのはかなり貴重らしく、みんなそれなりの自分の時間を過ごしていた。
今の忙しい世の中で生きている私達には、こういう時間は本当に貴重な時間だ。お坊さんが、ある話の中で「心もケアして、栄養をあげないと」言われていた。このようなリトリートだと、沈黙の時間を過ごしてはいるのだけれど、同じ空間に一緒に座ったり、存在していることによって、時間とともにある種の共有の感覚が生まれ、言葉はないけれど、その波動がお互いを支えることになる。特に座っているときは、20人弱程度はいるのに、2,3日目くらいから本当に静かになった。
私の場合、座っているときも心はあちこちへ行ったりで、自分の中はずいぶん騒がしいのだけれど、空間自体は人がいないときよりも、さらに静かな空間へと移行しているような感覚だった。一人で座るときとはまるで違う。このような自分の時間を大切にしつつ、お互いに支えあえるという場そのものが、自然に心をケアしてくれるように感じる。
アメリカの場合、会話での沈黙を嫌うらしく、とにかくみんなよく話す。スモールトークと言われるちょっとした会話がうまく、日本人よりも一般的にみんな社交性がある。けれどもその会話は別段意味の無いことも多く、それ自体に疲れることもあるのだろう。
日本でも、もちろんみんなしていることではあるけれど、アメリカとはやはり少し質が違う気もする。How are you?と聞かれたときに、別にfineでなくても、fineというのが挨拶なのだ。もちろん、近い友人の間では本音で話すだろう。しかし、基本的には自分のウィークを見せない、楽しく振舞うという傾向は日本よりもはるかに強いような気がする。
また、これは友人達の間で交わされるどうでもよい話とは質が違う。こちらにきて友人と交わすどうでもいい話が、どんなに生活に必要かということをつくづく感じている。私はそういうどうでもいい会話ができる英語力がないため、真面目っぽい話しかできない。また英語のユーモアを理解するには、最低10年くらいかかりそうだし(10年いても大変かも)。だから生活の潤滑油が不足してしまう。
そんなこんなで私はどうやら、カリフォルニアの乾燥した気候の下で、精神的にも身体的にも少し渇いてしまい、お肌がカサカサになった感じなのだ。最近、雨が降るとホッとするし。このような状態で参加したリトリートで、思いがけない暖かい言葉も人からもらったり、ずいぶん楽になった。
帰ってきて自分の部屋のドアを開けた途端、部屋の散らかりように愕然とし(部屋がおおばらだってことをすっかり忘れていた)、一気に日常に引き戻されてしまったけれど、まだ少しあの時の感覚が残っている。
アメリカは感謝祭が終わり、あとはクリスマスに向けてまっしぐらである。通りにクリスマスの飾りも登場し、店にはクリスマス商品のコーナーができている。クリスマスの頃は日本だあー。
そんなこんなですが、まあ元気にしています。そのリトリートから帰ってきた日、こちらで初めてミュージカルを観ました。「マンマミーア」というアバの曲で構成されたミュージカルで、アバの曲の内容がわかってないので、面白さは半減しているものの、エンターティメントとしてかなり楽しめました。バルコニー(一番安い席)で$42。安いですよね。それから来年の1月7日には、なんと小澤征爾指揮の「斎藤記念オーケストラ」がサンフランシスコに来るので、友人と行くことにしました。一番安い席でないけど$53です。安いでしょ。日本だとチケットを手に入れるのさえ難しいのに。アメリカは日本に較べてエンターティメントは断然安いです。というより日本が高いのかも。
ベイエリア通信#16 2000年11月29日
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